「今から音大受験なんて、もう遅いでしょうか」——この質問に、私は誰よりも実感を込めて答えられます。

私が音楽大学の受験を決めたのは、高校3年の夏でした。

幼少期からの英才教育は受けていません。コンクールで賞を取りながら育った子供でもありません。それでも音楽大学に合格し、大学院修士課程を修了し、特別研究生まで進みました。その後、国際コンクールで賞をいただき、イタリアでオーケストラと協奏曲を共演する舞台にも立ちました。

この記事は、受験を迷っているあなたへの、私の実体験の記録です。

ピアノが好きだった——それが出発点のすべて

まず正直に書きます。高3の夏の時点で、私にあったのは「元々ピアノが好きだった」ということだけでした。

進路を考えたとき、音楽を諦めて別の道を選ぶ自分がどうしても想像できなかった。決断の理由は、突き詰めればそれだけです。戦略も勝算も、後からついてきたものです。

これから受験を考える方にお伝えしたいのは、「好き」を出発点にしていいということです。むしろ、そこからしか始まりません。実技の練習も、後述するソルフェージュの猛勉強も、好きでなければ続かない量になるからです。

最初の一手:音楽大学の講習会に行く

決意してから最初にしたことの中で、いま振り返って最も効果的だったのは、音楽大学の講習会(夏期講習・受験講習)に参加したことです。

音大受験には、一般入試のような偏差値の物差しがありません。その代わりにあるのが「どの先生に見てもらうか」という要素です。講習会は、志望校の先生のレッスンを実際に受けられる場であり、相性の合う先生に出会うための最短ルートです。

私自身、講習会を通じて先生との出会いに恵まれたことが、合格への道を大きく開いてくれました。レッスンの相性は、説明会やパンフレットではわかりません。実際にレッスンを受けて、「この先生の言葉は自分に入ってくる」と感じられるかどうか。受験勉強の質は、この出会いでほぼ決まると言っても過言ではありません。

時期が合わない場合や、どの講習会に行くべきか迷う場合は、受験指導の経験がある先生に相談するのが近道です。当教室でも、受験をお考えの方には音大教授のご紹介を含めた受験設計のご相談に応じています。

最大の壁はソルフェージュだった

実技以上に私を苦しめたのが、ソルフェージュと楽典です。

音大受験には、ピアノの実技だけでなく、聴音(流れた音を楽譜に書き取る)、新曲視唱(初見の楽譜を歌う)、楽典(音楽理論の筆記試験)が課されます。幼少期から音楽教室に通っていた受験生は、これらを何年もかけて身につけています。

私は、高校生になるまでソルフェージュを受けたことがありませんでした。 スタートラインが違いすぎる——そう痛感したのを覚えています。

それでも、間に合いました。レッスンでの対策に加えて、市販の教材に自分で取り組むなど、使える時間をすべて注ぎ込んで、なんとか試験で戦えるレベルまで持っていきました。ここで一つ、実体験から言えることがあります。ソルフェージュは才能ではなく、訓練です。毎日やれば、必ず伸びます。逆に、週1回のレッスンだけで伸ばすのは難しい。レッスン+毎日の自習、この組み合わせが遅いスタートを埋める唯一の方法です。

短期決戦で学んだ、時間の使い方

高3の夏からの受験は、時間との勝負でした。振り返って、間に合った理由は3つあります。

1. 課題を絞ったこと。 全部を平均的に上げる時間はありません。実技の選曲は自分の手に合うもの、伸びしろが大きい科目(私の場合ソルフェージュ)に時間を厚く配分しました。

2. 独学と師事を組み合わせたこと。 レッスンで方向を確認し、自習で量をこなす。どちらか一方では間に合いませんでした。

3. 迷う時間をなくしたこと。 「本当に受かるのか」と悩む時間が一番の浪費です。決めたら、あとは手を動かす。それだけでした。

遅いスタートは、ハンデだけではなかった

合格して、大学・大学院と学びを深める中で気づいたことがあります。高3から始めた遅いスタートは、ハンデであると同時に、強みでもありました。

自分の意思で選んだ道だから、学ぶ理由が明確でした。時間が限られていたから、効率的な練習方法を必死で考える習慣がつきました。そしてソルフェージュを短期間で克服した経験は、その後「できないことをできるようにする方法」として、演奏にも指導にも活きています。

いま受験を迷っているあなたへ。高校生でも、社会人でも、決断に「遅すぎる」はありません。ただし、遅いスタートには正しい設計が必要です。何をいつまでに、どの順序で仕上げるのか——その設計を一人でやるのは困難です。

当教室の音大受験・コンクール対策コースでは、実技指導に加えて、ソルフェージュ対策、受験計画の設計、そして志望校に応じた音大教授のご紹介まで、私自身の経験に基づいてサポートしています。音大合格実績もあります(洗足学園音楽大学——私の母校です)。

あの夏の私と同じ場所に立っているあなたの、最初の相談相手になれたら嬉しく思います。

関連記事:社会人から音大受験は可能か——現実的なロードマップ/講師プロフィール

受験のご相談は、早いほど選べる道が増えます。教室の場所と通い方はアクセスをご覧ください。

執筆者ポートレート
執筆:小倉裕貴
ヒナステラ国際協会理事・東京支部長。ピアラ国際ピアノコンクール入賞、ヒナステラ国際コンクール ヒナステラ特別賞。イタリアのオーケストラとピアノ協奏曲を共演。