ツェルニー40番練習曲。ピアノ学習の王道教材でありながら、「何のために弾いているのかわからない」まま進めている人が非常に多い教本でもあります。

先に答えを言います。ツェルニー40番は、30番で培った技術の「応用」の教本です。 そして本当のテーマは、指ではなく、手首と腕にあります。ここを知らずに弾くのと、知って弾くのとでは、得られるものがまったく違います。

30番と40番の違い——「できる」から「使える」へ

ツェルニー30番では、基本的な音型——スケール、アルペジオ、同音連打、装飾音——を一つずつ習得します。いわば技術のパーツを揃える段階です。

40番は、そのパーツを実戦で使える形に組み上げる段階です。曲は長くなり、テンポは上がり、複数の技術が一曲の中で組み合わされます。30番が「できるようになる」教本なら、40番は「曲の中で使えるようになる」教本。この位置づけを理解すると、1曲1曲の狙いが読めるようになります。

難易度の目安としては、40番がしっかり弾ければ、ソナタアルバムからベートーヴェンの中期ソナタ、ショパンのワルツやノクターンの多くに、技術面で手が届きます。その先の50番、そしてショパンのエチュードへ続く、ちょうど中間地点です。

本当のテーマは「手首と腕の使い方」

40番で最も大切なこと。それは、指の練習のみならず、手首や腕の使い方を徹底的にマスターすることです。

40番のテンポ設定は、正直、速い。この速さは、指の力だけでは絶対に出せません。速いパッセージを軽やかに回すには、手首の柔軟な上下・回転運動で指を運び、腕の重さの乗せ方と抜き方でフレーズを作る必要があります。つまり40番の速度指定は、「手首と腕を使いなさい」という作曲家からのメッセージなのです。

指だけで頑張って弾くと、腕が固まり、テンポは上がらず、疲れだけが残ります。もし40番で「速くならない」「すぐ疲れる」と感じているなら、それは練習不足ではなく、体の使い方のサインです。1曲ごとに「この曲は手首の何の動きを学ぶ曲か」を考えて取り組んでください。

タッチを変えて、2倍おいしく使う

もう一つ、40番の効果を跳ね上げる方法があります。タッチを変えて弾くことです。

同じ曲を、軽く弾いたり、重く弾いたりする。軽いタッチでは指先のコントロールと敏捷性が、重いタッチでは腕の重さの支えと深い音の作り方が鍛えられます。一度譜読みした曲を、タッチ違いで2度3度練習すれば、1冊の教本から2倍3倍の技術が引き出せます。

これは実際の曲への直結度も高い練習です。ショパンには軽さが、ブラームスには重さが要る——タッチの弾き分けは、そのまま様式の弾き分けの土台になるからです。

全曲やるべきか?——大人のための現実的な進め方

よくある質問にお答えします。「40曲、全部やるべきですか?」

大人の学習者には、目的に合わせた抜粋をおすすめしています。あなたが弾きたい曲に必要な技術から逆算して、対応する番号を選んで深く取り組む方が、全曲を浅くなぞるより確実に力になります。どの曲にどの技術が仕込まれているかの見取り図は、指導者の頭の中にあります——ここがレッスンで教本を使う最大の意味です。

当教室のレッスン方針では、「テクニックの改善」の柱で、ツェルニーをはじめとする練習曲を、手首・腕の使い方、脱力、重さの支え方とセットで指導しています。この土台ができると、ショパンのエチュードにも手が届くようになり、音色そのものが変わっていきます。

40番を「こなす教本」から「変わる教本」へ。使い方次第です。

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手首と腕の使い方は、言葉で読むより、実際に音を聴きながらのほうが早く伝わります。教室の場所と通い方はアクセスをご覧ください。

執筆者ポートレート
執筆:小倉裕貴
ヒナステラ国際協会理事・東京支部長。ピアラ国際ピアノコンクール入賞、ヒナステラ国際コンクール ヒナステラ特別賞。イタリアのオーケストラとピアノ協奏曲を共演。