「音が硬いね」。レッスンや講評でこう言われて、どう直せばいいのかわからない——そんな悩みをよく聞きます。音の硬さは自分では気づきにくく、指摘されても「柔らかく弾いて」と言われるだけでは手がかりがありません。

長年多くの方の演奏を聴いてきて、音色が硬い人には、はっきりした共通点があります。脱力ができていないこと。そして、鍵盤を真下に打ち付けていること。 この2つです。逆に言えば、原因が2つなら、直し方も明確です。

共通点①:脱力ができていない——力んだ体は硬い音しか出せない

1つ目の原因は、脱力不足です。

腕や肩に力が入ったまま打鍵すると、指は鍵盤を「押し込む」のではなく「叩きつける」動きになります。硬直した筋肉を通った力は、衝撃として鍵盤に伝わり、そのままアタックの強い、金属的な音になります。ピアノは打楽器的な構造を持つ楽器だからこそ、体の状態が音に正直に出るのです。

見分け方は簡単です。フォルテを弾いた直後、肩や前腕に力が残っていませんか?弾き終わった手が、すぐに脱力した自然な形に戻らないなら、打鍵の瞬間も力んでいます。

直し方の本質は、力を抜くことではなく、腕の重さを鍵盤に預ける「支え」を作ることです。重さで鳴らした音は、同じ音量でも角が取れて豊かに響きます。この仕組みは脱力の記事で構造から詳しく解説しているので、あわせてお読みください。

共通点②:鍵盤を真下に打ち付けている

2つ目の原因は、より具体的な動作の話です。鍵盤を、真上から真下に打ち付けていること。

指を高く上げて、鍵盤に対して垂直に振り下ろす——この打鍵は、鍵盤の底に当たる衝撃音(打鍵ノイズ)が音に混ざり、どんなに気持ちを込めても硬い音になります。ハンマーが弦を「叩く」のではなく「突き上げて撫でる」ように動くのが理想で、そのためには指が鍵盤に触れてから沈める、方向とスピードのコントロールが必要です。

イメージとしては、鍵盤を「叩く」のではなく「底まで運ぶ」。指先が鍵盤に触れた状態から、手前に軽く引き込むように、あるいは奥へ押し出すように、打鍵に斜めの方向を持たせると、音の角が取れていきます。ハンマーの動き出しが滑らかになり、同じフォルテでも響きの質が変わるのです。

硬い音と「輝く音」は違う——耳の基準を作る

ここで一つ、大切な区別を。硬い音と、輝きのある音は別物です。

華やかでキラキラした音は、決して叩いて出す音ではありません。速く浅いタッチで、しかし力みなく弾いたときに出る音です。一方、硬い音は輝きではなく「うるささ」として耳に届きます。この違いを聴き分ける耳を作るには、自分の演奏を録音して聴くのが一番の近道です。弾いている最中の自分の耳は、体の感覚に引っ張られて当てになりません。録音は嘘をつきません。

音色は、直せる

音が硬いのは、才能でも手の形のせいでもありません。脱力と、鍵盤へのアプローチ——直せる技術の問題です。実際、レッスンでこの2点を整えた方は、数ヶ月で「同じピアノとは思えない」と言われる音になります。ご本人が一番驚かれます。

当教室のレッスン方針では、「タッチと奏法のバリエーション」の柱で、楽器の鳴らし方、輝きのある音の出し方、鍵盤へのアプローチの引き出しを体系的に指導しています。ハイフィンガー奏法の癖で音が硬くなっている方の、重力奏法への移行も専門です。

あなたの音は、もっと柔らかく、もっと豊かに鳴ります。

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執筆者ポートレート
執筆:小倉裕貴
ヒナステラ国際協会理事・東京支部長。ピアラ国際ピアノコンクール入賞、ヒナステラ国際コンクール ヒナステラ特別賞。イタリアのオーケストラとピアノ協奏曲を共演。